東京地方裁判所 昭和51年(特わ)208号 判決 1976年11月19日
本籍
東京都新宿区西大久保一丁目四六二番地
住居
同都品川区北品川六丁目一番一〇号
職業
歯科医師
高泰雄
昭和四年八月二三日生
右の者に対する所得税法違反被告事件につき、当裁判所は検察官清水勇男、弁護人倉井藤吉出席のうえ審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人を懲役一〇月および罰金二、〇〇〇万円に処する。
右罰金を完納することができないときは金二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
この裁判の確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、東京都千代田区有楽町一丁目一二番一号所在新有楽町ビル一階医療コーナーにおいて、高歯科医院を経営し歯科医業を営む歯科医師であるが、自己の所得税を免れようと企て、二重帳簿を作成して自由診療収入の大部分を除外し、仮名預金を設定するなどの方法により所得を秘匿したうえ
第一 昭和四七年分の実際総所得金額が四、六九三万七、七六六円あったのにかかわらず、昭和四八年三月一五日、東京都新宿区北新宿一丁目一九番三号所在の所轄淀橋税務署において、同税務署長に対し、総所得金額が六一五万八、六二八円でこれに対する所得税額が五六万七、四〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により昭和四七年分の正規の所得税額二、四〇四万五、〇〇〇円と右申告税額との差額二、三四七万七、六〇〇円を免れ(修正損益計算書および税額計算書は別紙(一)(四)のとおり)
第二 昭和四八年分の実際総所得金額が五、四四九万〇、六六九円あったのにかかわらず、昭和四九年三月一三日、前記淀橋税務署において、同税務署長に対し、総所得金額が五三五万一、七二七円でこれに対する所得税額が、三六万一、七〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により昭和四八年分の正規の所得税額二、八九五万八、一〇〇円と右申告税額との差額二、八五九万六、四〇〇円を免れ(修正損益計算書および税額計算書は別紙(二)(四)のとおり)
第三 昭和四九年分の実際総所得金額が八、〇五二万六、五五八円あったのにかかわらず、昭和五〇年三月一五日、前記淀橋税務署において、同税務署長に対し、総所得金額が六五一万七、一〇九円でこれに対する所得税額が二七万〇、四〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により昭和四九年分の正規の所得税額四、五一五万四、九〇〇円と右申告税額との差額四、四八八万四、五〇〇円を免れ(修正損益計算書および税額計算書は別紙(三)(四)のとおり)
たものである。
(証拠の標目)
判示全般の事実につき
一、被告人の当公判廷における供述
一、被告人の収税官吏に対する昭和五〇年六月一七日付、一〇月一八日付、一一月一五日付、一二月六日付各質問てん末書および検察官に対する供述調書
一、竹内昌代の収税官吏に対する各質問てん末書(二通)
一、品川税務署作成の証明書
一、押収してある資産負債損益勘定帳三冊(当庁昭和五一年押第一三四九号の二ないし四)、所得税確定申告書三袋(前同押号の五ないし七)および青色申告者書類綴一綴(前同押号の八)
別紙各科目につき
一、大蔵事務官作成の公表計上自由診療収入調査書および自由診療収入調査書(総括表)
(別紙(一)ないし(三)の各番号<1>収入につき)
一、大蔵事務官作成の簿外金属仕入金額加工料たな卸額調査書および依田秋人作成の昭和五〇年一一月八日付(簿外金属仕入金額、加工料たな卸について)と題する上申書
(別紙(一)ないし(三)の各番号<2>期首たな卸高、各番号<4>加工料、各番号<5>期末たな卸高につき)
一、依田秋人作成の同年一一月一五日付上申書および前記上申書
(別紙(一)ないし(三)の各番号<3>仕入につき)
一、大蔵事務官作成の租税公課否認調査書
(別紙(一)、(三)の各番号<6>租税公課につき)
一、依田秋人作成の同年一一月三〇日付(簿外交際費の支出について)と題する上申書
(別紙(一)ないし(三)の各番号<11>接待交際費につき)
一、清水重三郎作成の保険料払込金額等照会に対する回答と題する書面、大蔵事務官作成の損害保険料調査書および昭和五一年四月一七日付損害保険料についてと題する回答書
(別紙(一)ないし(三)の各番号<12>損害保険料につき)
一、大蔵事務官作成の減価償却調査書
(別紙(一)ないし(三)の各番号<15>減価償却につき)
一、大蔵事務官作成の福利厚生費調査書
(別紙(一)ないし(三)の各番号<16>福利厚生費につき)
一、依田秋人作成の同年七月二八日付上申書、竹内昌代作成の上申書および大蔵事務官作成の簿外人件費調査書(合計表)
(別紙(一)ないし(三)の各番号<17>給料賃金につき)
一、協和銀行有楽町支店長作成の上申書および三菱銀行有楽町支店長作成の上申書
(別紙(一)の番号<25>雑費、別紙(二)の番号<23>雑費、別紙(三)の番号<24>雑費につき)
一、大蔵事務官作成の青色専従者給与否認調査書
(別紙(一)の番号<26>専従者給与、別紙(二)の番号<24>専従者給与、別紙(三)の番号<25>専従者給与につき)
一、依田秋人作成の同年一一月三〇日付(未収金にかかる貸倒損について)と題する上申書
(別紙(一)の番号<28>貸倒金、別紙(二)(三)の各番号<27>貸倒金につき)
一、依田秋人作成の同年一一月三〇日付(未収金にかかる値引処理について)と題する上申書および大蔵事務官作成の未収金値引調査書
(別紙(一)の番号<29>収入値引、別紙(二)の番号<28>収入値引、別紙(三)の番号<29>収入値引につき)
一、大蔵事務官作成の昭和五一年四月一七日付(計算誤びゆうについて)と題する回答書
(別紙(二)の番号<18>利子割引料、同番号<23>雑費、別紙(三)の番号<6>租税公課、同番号<7>水道光熱費につき)
一、依田秋人作成の昭和五〇年一一月八日付上申書
(別紙(二)の番号<26>退職金につき)
一、依田秋人作成の昭和五〇年一二月八日付上申書
(別紙(三)の番号<22>図書研究費につき)
一、被告人の収税官吏に対する昭和五〇年一二月九日付質問てん末書
(別紙(四)の扶養控除につき)
(法令の適用)
一、該当罰条および刑種の選択
判示第一ないし第三の各所為 各所得税法二三八条(懲役刑、罰金刑併科)
一、併合罪加重
判示第一ないし第三の罪 刑法四五条前段
懲役刑につき 同法四七条本文、一〇条(最も犯情の重い判示第三の罪の刑に法廷の加重)
罰金刑につき 同法四八条二項
一、労役場留置
罰金刑につき 同法一八条
一、執行猶予
懲役刑につき 同法二五条一項
(量刑の事情)
被告人は昭和三〇年ごろから新宿で歯科医師を開業し、昭和四四年には現在の新有楽町ビルに進出し、同ビル付近のサラリーマンを中心に治療を行なっていたものであるが、過去に経済的に苦しい生活を経験したこともあって、生活と経営の安定および設備の改善をはかりたいなどの目的で、昭和四七年ごろから自由診療収入の大半を公表帳簿に記載せず、裏帳簿に記載してこれを隠匿保管し、除外した収入は仮名預金、絵画、不動産等として蓄積していたものであって、ほ脱税額は三ケ年合計で九、六九五万円余にのぼる巨額のものであり、正当税額に対する申告税額の割合も著るしく(平均一・二%程度)、被告人が医師という社会的に尊敬を受ける立場の人間であるだけにその犯情は極めて重いものがあると言わなければならない。
もっとも現在では被告人も反省し、本件を機会に従前の自己中心的な考え方を改めたいと真剣に考えており、査察調査に積極的に協力し、ほ脱額についても昭和四六年以降の分について修正申告をし、すでに八、三〇〇万円余を納税しており、その余の分についても分納中であるが、資産の差押処分を受けており、完納が見込まれること、なお法律上所得とされた額のうちに相当な額の未収金をかかえていることがうかがえ前記納税については被告人としても非常な努力をはらっていること、本件事件により信用を失遂したこともあって経営も苦しくなってある程度の社会的制裁をすでにうけていること、これまで歯科診療については被告人なりに研究をし真面目に治療を行っていたこと、さらに事件後経理体制についても改善し、自由診療収入につき銀行振込を主体にするよう考えていることなど被告人に有利な諸事情も認められるので以上を総合的に考慮して主のとおり量刑した次第である。
よって主文のとおり判決する。
(裁判官 安原浩)
別紙(一)
修正損益計算書
高橋泰雄
自 昭和47年1月1日
至 昭和47年12月31日
<省略>
別紙(二)
修正損益計算書
高橋泰雄
自 昭和48年1月1日
至 昭和48年12月31日
<省略>
別紙(三)
修正損益計算書
高橋泰雄
自 昭和49年1月1日
至 昭和49年12月31日
<省略>
別紙(四)
税額計算書
高橋泰雄
<省略>
算出税額内容
47年 46,013,000×65%-5,284,000=24,624,450
48年 53,506,000×65%-5,284,000=29,494,900
49年 79,505,000×70%-9,761,000=45,892,500